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団遊日記

「たけのこ(2011/6/17)」

「それはたいへん突然のことであった」
と、
書いてから、期待するような突然のことが起こらず、
気がつくと半年以上、団遊日記をさぼっていたさ中、
アシスタントのひとり・高岡みなみが
「見積書を見て下さい」と言ってやってきました。

「みなみ」という名はもちろん、あだち充作「タッチ」からいただいた名前で
上杉達ちゃんと和也(だったよね?)を惑わすような、
純粋で誠実で美しい女の子に育ってほしいという両親の気持ちが込められています。

前日に見積書を作っている話を聞いていたので、僕はさらりと
「印刷費は仕様に合わせて3パターンくらい用意した方がいいよ」
と伝えていました。メニューがひとつのファミレスよりも、
3つあった方が流行るのと同じです。

「団さんが言ったように、見積もりはバリエーションを用意しました」
と言う彼女は、手に複数の紙を束ね僕の前にズズイと一枚目を差し出しました。

「これが一番高い、松です」。
うむ、確かになかなかのお値段であります。

「こちらが竹で」
ほおほお、
「これが梅です」
なるほど、梅はずいぶんとリーズナブル。
でも造作に面白味が欠けるかな? などと思っていると
「一応、タケノコです」。




た、タケノコ?

一瞬耳を疑いまいた。きっと冗談だと思いました。
しかし、僕の隣にすわるみなみちゃんの顔は、
「オリンピックの100m決勝を走り終えたボルト選手」
のように、凛としています。
「どや顔」にも近いその顔は、
決してギャグをかました後のそれではありません。

ところが、
タケノコで「どや!」と言われてもこちらも困ります。
改めて書面を見ると、タケノコは金額的に竹と梅の間になっています。

こういうとき、僕はまず自分を疑ってみます。
「もしかしたら、僕が無知なだけなのではないか」
まして相手はアシスタントです。ここで高笑いをして
「タケノコってなんだ、このバーカ」などと言いながら
グーグル検索をして「松・竹・タケノコ・梅」(中国古事記より)
とでも出てきたら、僕がアシスタントに格下げであります。

そこで込みあがってくる疑問と笑いを必死に押さえ、
冷静を装い尋ねてみました。

「みなみ、このタケノコは、竹と梅の間でいいかな?」
「そうですよ」

みなみは「今更何を聞く?」的な反応を返してきます。
「おまえ、女性だっけ?」という質問への返答に近いものがあります。
いよいよ本格的にギャクをかましているわけではないことがわかりました。
そして僕の頭は混乱するばかりです。
僕は自分に教養が薄いことを自覚しています。
だからこのとき、不覚にも「そうだったのか…」などとうっすら
感じ始めていたくらいでした。

戸惑う僕を横目に100mを走り切ったどや顔は極めて冷静です。
そして、僕も冷静になろうと「見積もりはこの4つかな」と、
半ば自問に近い形で、静かに問いかけました。
するとみなみは
「5つは多すぎるかと思いまして」と答えます。


い、5つ!?

なんと、5つ目があるのです。
にわかに信じがたい思いを胸に、さらに僕は
「っていうことは、松と竹の間に、もうひとつあるってことかな?」と尋ねました。
すると


「ええ、まつぼっくり」。

「でもちょっと造形が思いつかないので…………」
(まつぼっくりが頭の中をごろごろ転がり中)
とみなみは言葉を継ぎましたが、
もはや造形なんてどうでもいいのであります。

まつぼっくりであります。

僕は松竹梅とタケノコの群衆に、
あのイガイガと無骨なまつぼっくりを頭の中で足してみました。

「ありえない……」
そう確信して、僕は初めてみなみに「アホか!」と突っ込みました。

調べてみると、やはりタケノコとまつぼっくりは仲間ではなく、
みなみは25年間、「松・まつぼっくり・竹・タケノコ・梅」と
信じて生きてきたことが判明しました。
誰かにそう習ったそうです。

さらに、松竹梅は中国の伝記から来ているらしいのですが、
松を最上に据えランク分けに使ったのは
日本人のカスタマイズであることも、わかりました。

「純粋で誠実で美くあれ」と期待され育ったみなみちゃん。
残り二つは別として、確実に純粋に育っているのであります。