バス停で知っている女性に出くわした。
大学時代の後輩だった。
目が合って、お互いに「あっ」と言った。
自分の卒業以来の再会なのでもう何年も会っていないことになるが、一目見てわかったくらいだから、それほど様子が変わっていたということはない。
ただ、顔はあの頃よりもお肉を少々多めに召されていた。
言っておかなければならないのは、別に彼女とはそれほど親しかったわけではない。たまたま同じ授業をとっていたので見知っているという程度の仲である。
一方で私は彼女のことをちょっと気に入っていたこともまた事実であった。かわいいな、と思っていた。
とはいえ、突然の再会にこれといった話題も見出せず、正直言ってこれからバスに数十分乗り合わせるのは気まずいという思いがその瞬間は何よりも先行していた。
そうしたら、口火を切ってきたのは彼女の方だった。
「お久しぶりです」と挨拶された。
私も「久しぶり」と返す。
とりあえずそう返して、さていよいよ何を話そうか本気で思考を巡らせる。
すると彼女が先手を打って、「話題があったら話しかけますね」と続けてきた。
そう言ったきり彼女は、正面を向き直し、何か考え事をしていたのを再開するような雰囲気で、遠くの方を眺め始めた。
私はあっけにとられて「あぁ、うん」と頷くのが精一杯。仕方がないので、さっき読み終えたばかりの小説を、無駄にもう一度最初から読み出すのだった。
なんだなんだ、変なやつー。太ったくせにー。調子に乗るなー、太ったくせにー。