森ガールは森になんていないけれど、地下アイドルはどうやらホントに地下にいるようだから、その世界をちっとも知らないくせに何となく知った気になっている人は多い。そういう把握のされ方って、ファンにとっては一番腹が立つもので、例えば私ならば、愛聴しているデスメタルを、しょっちゅう教会に火をつけているような奴らが叫んでるおぞましい音楽だと思われるととっても心外。しかしながら、確かな事実として教会に火をつけてしまった奴らもいるものだから、この手の混沌としたシーンを正しく伝えるのは難しい。
「ゆるめるモ!」のセカンドアルバム『YOU ARE THE WORLD』を、彼女らの所属レーベルを運営するアソブロックの知人から渡されたので、素直に黙って3度ほど聴く。ちょっとこの凄さはズルいぞ、と思った。おそらく地下で蠢いているであろう混沌の全種類を、光のあたる場所に美味しく引っぱり出してきたように感じたから。でもそれは、彼女たちがどこまでもタフだからできたことなんだろう、という体感もある。
「窮屈な世の中を私達がゆるめるもん!」というコンセプトで2012年に結成された彼女たち。一言でいえば、disk unionの店内で細かく区分けされている音楽ジャンルを全てジューサーにかけて搾り取ったようなアクロバティックな音楽だが、ちっとも苦みがなく、ごくごく飲める。「iDアイドル」なんて、(日本で最大2000人くらいしか反応してくれないと思うが)DEVIN TOWNSENDが得意とする、ブルータル・メタルとアンビエントな音を絡み合わせるような展開で、繰り返し聴いた。楽曲ごとに表情を変え、嬉々としながら飛躍していく彼女たち。
今年の頭だったか、とあるアイドルのプロデューサーにインタビューした際、「哲学者とか評論家とか、アイドルの構造を自分好みに語って、それを『彼女たちの物語が……』とか言うけど、アホかと思います」という言葉が出てきて、まったく痛快だった。
俺たちがアイドルを支えなければいけないという奇妙な親心が、アイドルを無理やり型にはめこめてしまったりもする。でも、この人たちは「彼女たちの物語が……」なんて言われる前に、『YOU ARE THE WORLD』、アタシ達じゃなくて、YOUがWORLDだと言う。
このYOUは、男性アイドルの巣窟の親玉さんが「YOUやっちゃいなよ」と繰り返すことで生み出した主体性とは違う。歌詞から拾えば、「夢なんてひとつもないよ 何が悪いの? 何が? 何が?」と、かくあるべしと迫ってくる働きかけから堂々と逃れ、「すべて 壊します そして 考える 何が 罪なのか」と自由な振る舞いを宣言する。何となく知った気になった私のような人から逃げ回る。主体を掴ませない。
お上に逆らいすぎて虐殺されてしまったアナキスト・大杉栄に、こんな至言がある。
「僕は精神が好きだ。しかしその精神が理論化されるとたいがいはいやになる」
なぜいやかというと、理論化の行程に「まやかし」があるからなんだ、と彼は言った。「ゆるめるモ!」の魅力は、よく分からないところにあって、よく分からないまんまであり続けることを、当人もファンの皆も望んでいるんだと思う。それって、とっても強靭なコミュニケーションだ。
「まやかし」がデフォルトなアイドルの世界で、この人たちは、理論化を避けながら精神だけで歌っている気がする。気がするだけかもしれない、と悩ませたまんまにするのも凄い。