俊楽
去年、マンション買っちゃいました。住宅ローン組みました。35年ローン。ふと「払えなくなったらどうしよう?」と不安になることがあります。備えあれば憂いなし、住宅ローン返済の専門家である不動産コンサルタント、株式会社いちとり代表の林達治さんにいろいろ教えてもらいます。
いちとり林
よろしくどうぞ
俊楽
林先生、借金で頭がいっぱいでゆとりのない僕にもわかるように色々と超絶簡単におしえてください!!
住宅ローンを滞納したら起きること
俊楽
まず最初にお聞きしたいのが、住宅ローンって払えなくなるとどうなるんですか? 怖い人が取り立てにくるんですか?
いちとり林
怖い人が取り立てにくるってことは基本的にはないです。住宅ローンを滞納したら、まずは銀行から督促状がきます。それを何回か無視していると、分割で払える権利を失ってしまい「一括で返してね」という通達がきます。分割で返せないものが一括で返せるわけもないので、たいていここで”詰み”となり、そうすると住宅ローンを組む際に各銀行が指名している保証会社が残債を立て替えることになります。
俊楽
保証会社が借金を立て替えてくれるんですね? ラッキー!
いちとり林
いやいや、単に債権者(借り手から見た返済相手)が変わるだけで借金がなくなるわけではありません。次のステップとして、保証会社は競売(けいばい)の申し立てをしてきます。ローンを返してもらえないなら少しでも現金を回収する手段として強制的にあなたの家を競りにかけて売ってしまいますよ、ということです。
俊楽
競売(けいばい)? 競売(きょうばい)じゃなくて?
いちとり林
同じ意味なんですが、不動産業界で使われる際には習慣的に競売(けいばい)と読むことが多いです。
俊楽
どっちにしてもオークション方式で我が家が投げ売りされてしまうってことですよね?
いちとり林
まぁそういうことですね。一般のオークションと違って、不動産の競売は準備開始から落札されるまでにはだいたい半年とか永いと1年以上かかるものではありますが。
俊楽
無理やり売られちゃうのは悲しいけど、競売にかかることで借金がなくなるならまぁいいか…。
いちとり林
あくまで借金返済の足しにするために売られるにすぎないので、借金の残額がすべてなくなるわけではありません。むしろ本来の市場価格より大幅に安く買われてしまうので、競売(けいばい)にかかるのをただ待つというのは、非常に損するやりかたです。
俊楽
そうなんですか? じゃあどうするのが賢いやり方なのでしょうか?
いよいよ住宅ローンが払えないとき、どのような手がある?
いちとり林
住宅ローンが払えないかも?というときに打つべき策は基本的には次の2つです。
① 借りた銀行に相談に行き無理なく払えるプランに組み直す
② それでも払えなければ物件を「任意売却」する
俊楽
ひとつめは納得です。ふたつめ、聞きなれない言葉が出てきました。「任意売却」とは…?
いちとり林
任意売却とは、不動産価格が住宅ローンの残高を下回る場合でも、不動産仲介業者を介した話し合いによって債権者の合意を得て売却を可能にするという不動産取引のことです。
俊楽
うーん、わかるようなわからないような。そもそも「任意」って自由な意思に基づいてみたいな意味じゃないですか。基本的にどんな売却もするかしないかは「任意」じゃないんですかね?
いちとり林
たしかにそういえばそうなんですが、この場合、意思に関わらず強制的に執行される「競売」(強制売却)の対義語としての「任意売却」という意味で捉えていただければと。
俊楽
任意売却と、普通に売却するのと、何が違うんですか?
いちとり林
ざっと違いをまとめるなら以下のような感じでしょうか。
通常の売却 | 任意売却 | |
発動のタイミング | 売主が売りたいとき | 住宅ローン滞納時などの 特殊条件下 |
住宅ローンの残額 | 売却額(+自己資金)で 完済が前提 |
売却額が住宅ローン残額を 下回っても売却可 (ただし債権者の同意が必要) |
売価の決定権 | 売主 | 債権者 |
仲介手数料 | 別途発生 | 売価に含む |
俊楽
なるほど。それで、先ほどただ競売を待つのは損するやり方とのお言葉がありましたけど、この任意売却の場合、競売を待つよりもお得なんでしょうか?
いちとり林
そうですね。基本的にはほぼ間違いなく、競売より任意売却のほうが高く売れます。
俊楽
なんと! であれば何もしないで競売を待つより「任意売却」をしない手はないですね。
いちとり林
そう思います。ただし留意点もあって、任意売却は債権者の立場が絶対。買い手がつきそうでも、債権者が首を縦にふる金額でなければ、売買は成立しません。
俊楽
あれ、なんだかとたんに険しそう。
いちとり林
ですからそのあたりはさじ加減の難しい調整ごとを一任できる、任意売却案件に精通した経験豊富な不動産業者に相談することが重要です。
俊楽
経験を重視するのであれば、ナレッジの多そうな大手の不動産業者に相談したほうがいいってことでしょうか?
いちとり林
必ずしもそうとは言えません。むしろ正直な話をすれば任意売却案件は債権者が複数いるケースが多いなど非常に手間がかかるので、大手の不動産会社では積極的に対応するところは少ないと思います。
俊楽
規模の大小ではなく、任意売却に積極的に対応している不動産業者を見極めて相談してみるのがまずはよさそうですね。
住宅ローンが払えないときのNG行動とは?
俊楽
最後にこれも聞いておきたいのですが、住宅ローンが払えないかもというときに絶対に避けるべき行動について教えて下さい。
いちとり林
そうですね。あくまで個人的見解という断わりつきですが。
①その場しのぎで他から借金しない
住宅ローンは一般的に金利の低い部類のローンです。それを金利の高い業者から借金してまでまかなおうとするのは、愚の骨頂です。あるいは親類・知人に無心するケースもよく見受けますが、人間関係を壊しかねない頼みごとを何十年単位の長期間果たして続けられるでしょうか? よく考えてみて欲しいと思います。
②近寄ってきた人にとりあえず頼らない
ローンを滞納するとそれを嗅ぎつけて売り込みが増えたりします。もちろんすべてが悪い人や会社ではありませんが、信用できるかどうかは慎重に判断しましょう。
③競売を申し立てられてからしばらくすると裁判所から執行官という人がやってくるが、優しいからといって味方と思わない
ここまで言いきっていいかどうか少し躊躇しましたがあえて言います(笑)。彼らはもちろん悪意のある人たちではありませんが、あくまで競売を滞りなく実施するのが仕事。競売は既に述べたように売却額の面では損の大きい方法ですから、少しでも高く売りたい場合には、執行官に流されないほうがよいです。
俊楽
なかなか生々しい話!
いちとり林
最後にひとつ、いちばん大切なことがあります。
俊楽
なんでしょう!?
いちとり林
けっして悲観的になって諦めてはいけないということです。
俊楽
!!!
いちとり林
住宅ローンが払えなくても命までとられるわけではありません。病気や怪我などさまざまな事情で一度はローンを払えなくなっても、破産せず上手に再スタートをきっている人たちがたくさんいます。まずは肩の力を抜いて考えてみることが大切だと思います。
俊楽
林さん、最後は温かいお言葉まで。今回はいろいろ教えていただき、ありがとうございました。
俊楽