アソブロックのプロデューサーとして企画・制作シゴトで活躍する傍ら、自らの存在を「演劇人」と定義し、演出家、演技トレーナー、子どもたちへの表現ワークショップ講師など演劇を軸にした多彩な活動も精力的に行う林洋平。編集と演劇。互いの共通点を探りつつ「演出で培った編集に活きる テクニック」について、聞いてみた 。
聞き手: 魁生 佳余子 (フリーライター)
テクニック1:「立体的に」表現する
「想像力を働かせ、ビジュアルイメージを思い描く」
―アソブロックのメンバーに、編集のテクニックやこだわりを聞いていくインタビュー企画です。林さんといえば「演劇人」ですが、 演劇に携わってきた林さんならではの編集へのアプローチのしかたや強みなど、ご自身ではどうお考えですか?
林:そうですね…自分で分析するのはなかなか難しいですけど(笑)。ひとつ思い当たるのは、演劇って3次元の芸術なので、僕の場合はWeb記事や冊子の企画を立てるときにも、企画段階から「そのコンテンツは映像化できるか」「立体化できるか」みたいなことは考えます。伝えたいことを、絵的に浮かび上がらせてコンテンツ化するのが好きだし、まあ得意なのかなとは思います。
―「企画を立体化」というのは印象的なキーワードですね。言葉だけでなくビジュアルや動きとして想像できるかを大事にしている、ということでしょうか。
林:そうですね。例えばある商品を紹介するコンテンツだとしたら、「こんな機能があってこういうことができるので、すごい商品だ」というだけでは説明的過ぎて、コンテンツというよりはただの広告になってしまいます。そうではなくて、その商品に触れた人はどんな顔をするだろうか、すごいことができる機械を持ったら、人はどんな風に喜ぶだろうかといった風に、想像力を働かせていくんです。シチュエーションを考え、文字だけではわからないことを想像力豊かに浮かび上がらせ、そこから生まれたストーリーやカット割りから、具体的にコンテンツを形にしていくんです。
―文字を絵で立ち上げるというのはできるようで意外と難しいことだと思いますが、林さんの場合は演劇で培ったスキルがそこに活きていそうですね。
林:どうでしょうか。まあそうなんでしょうね(笑)。演劇だと例えば「花が散っている」シーンが台本にあったとして、俳優にセリフを言ってもらうときに「桜の花びらが舞う風景を想像しながら言ってみて」と具体的に伝えるのと伝えないのとではやっぱり全然セリフの聞こえ方が違うんですよね。それを自分的には「セリフを映像化して発する」と表現しているんですが。冊子やWebでも同様で、同じテキストでも伝え手が全体の「絵」を描けているかどうかで、コンテンツの伝わり方は全く変わってくるとは思っています。
―でも、編集に携わる誰もが演劇経験を持っている訳では当然ありませんね。手軽にコツを取り入れるとしたらどこがポイントでしょうか。
林: ありきたりなアドバイスにはなってしまいますが、常に「何を伝えるか」「誰に伝えるか」を問うことかなと思います。 最近は、従来の編集のイメージだった書籍や雑誌・冊子等の紙モノだけではなくWebや動画など表現できる媒体が増え、編集者に対して求められることがとても多くなってきていると思いますが、媒体が変われどそうした基本の部分は変わらない原則だと思っています。
テクニック2:「想い」を乗せる
「『想い』は伝えようとしないと、伝わらない」
― 他に企画を立てる際に、大事にしていることは?
林:「想い」を伝えるということですかね。そもそも企画って、形になって世の中に出る前にまず企画会議を通さなきゃいけないじゃないですか(笑)。そんなときに「こうしたらこの商品は売れますよ」ではなくて、「こういう意味があるコンテンツだからこうやりたいんです」と、なぜ企画したのか、どんな意味があるのかをしっかり伝えることで、企画が理解してもらえることが多いですね。
―コンテンツの企画・制作者の「想い」の前に、クライアントの「想い」もありますよね。
林:そうなんです。例えば、すごい技術や商品を持っている会社があるとします。でも出されている情報からは「想い」の部分が伝わってこないということは多いです。技術紹介やどんな機能があるかといったことは、説明を読めばわかります。でもなぜこの商品を売りたいのか、この商品を作るときにどんな想いがあって形にしたのかということがわからなければ、ユーザーにも響かないと思うんです。それをコンテンツで引き出していこうとするのが次の段階です。
―その「想い」をどう追求するのでしょう。
林:商品やサービスであれば、可能な限りそれを生み出した人に話を聞きますね。そしてその商品の先にいる人に「想い」が届くコンテンツとはどんなものかと想像していく。広告であるとしても広告っぽくないというか、何かを知ることができたり、読んで良かったと思える点がないと、イヤだなと思うほうなので。演劇でも、 結局のところお客さんが楽んでくれてなければ成功とは言えません。コンテンツだってやるからには人に届いて、感動してもらわないと意味がないだろうと。そのために「想い」をしっかり乗せたものを作らないといけないとは、自然と心がけていますね。
―これまで手がけたコンテンツの中で「想い」が届いた、という手応えを感じたものはありましたか?
林:さっきの例じゃないですが、実際にある優れた技術を持っているのに、そのすごさはあまり世の中に、どころか同じ社内にすらきちんと伝わっていないという会社がありました。そこで、思い切りデフォルメしたキャラクターを使用者役に仕立てて開発者と赤裸々にやり取りするというコンテンツを作ったら、とてもウケまして、結果シリーズ化しています。「この技術でこんなことができます」「嘘つけ!」「本当です」「本当だ! 感動した!」みたいなやつなんですが。それこそビジュアルがないと内容全然伝わらないんですけど(笑)。これも技術自体の解説ではなくて、開発のきっかけとなった「想い」を中心に、使う人にどんな驚きや感動があるのかをイメージした結果生まれた企画だったと思います。
―企画する側の想い、クライアントが持つ想い、両方が噛み合ってうまくいくんですね。
林: 当たり前ですけど何事も、伝えようとしないと伝わりませんからね。自分も素直に心の中にあることを伝えますし、またコンテンツを作る際にもクライアント側の想いをいかに引き出して伝えられるかが鍵かなと思います。
テクニック3:無駄を削ぎ落とす
「いろんなアイデアの中から必要なものだけを残す」
―ここまで伺った「立体的に表現する」「『想い』を乗せる」の他には、どんなことを意識して企画・制作を行っていますか?
林:あとはそうですね…メリハリを考えますかね。文字の分量や写真の配置等は基本ですが、すべて見せ方次第でかなり印象が変わります。文章が長すぎても伝わりにくいなとか、そのかわり写真が多い方がいいかなとか、どう見えていて、何がどんな風に伝わるかを考えながら構成を作ります。そして最後は無駄なものを削ぎ落としてシンプルになっていることが大切かな、と。先ほどの例で言うと、売りたい商品の「想い」の部分をしっかり見せられているかですね。
―最初から無駄のない形で進めるのではなく、制作を進めていくうちに余計なものがなくなっていく感じでしょうか?
林:編集というのは、字のごとく、素材を集めて編み直す作業だと思っていまして。どれだけ見せたいものやコンテンツに思い入れや熱い気持ちがあっても、ただすべてを詰め込んでしまうと逆にその気持ちが重たいですよね(笑)。「想い」を伝えるには全部入れなくてもいいんです。むしろいかにメリハリをつけ、シンプルに一番大事なことが伝わる内容に整理できるかが大事だと思っています。
―演劇でも同様のことがありますか?
林:演劇では削ぎ落としは日常茶飯事ですね。もちろん観客に最良の見せ方を提示するために、いろんなアイデアは必要なんです。一つの場面に対してああやってみよう、こうしたらどうだろうと、ときには役者からも意見が出て稽古場ではいろいろとやってみます。採用することもあれば、試してみてやっぱりなくていい、となることもあります。その試行錯誤を経ることで必要なものとそうでないものが見えてきて、削ぎ落とすことが可能なんです。やろうとしなければ何が無駄なのかということはわからないですからね。僕は演出する時にはどちらかというと全員に対等な立場でいろんな意見を出してもらうタイプです。でも最終的な責任は演出家である自分にあり、いろいろ出てきたものをいかにうまくまとめられるかが手腕だったりもします。まさに素材を集めて編み直す作業です。そう見ると演出家と編集者はやはり作業的に共通項が多くあって、僕の場合はどちらにも携わることで相互に学びになっていると感じますね。
林洋平流、コンテンツ企画・制作術3つのポイント(おさらい)
① 「立体的」に表現する
② 「想い」を乗せる
③ 無駄をそぎ落とす
アソブロックの「編集部立ち上げ支援サービス」では、効果的なコンテンツ制作のノウハウ提供や、継続的に情報発信するための体制整備のお手伝いをしています。メディア運営で悩みを抱えている方は、お気軽にご相談ください。
■編集部立ち上げ支援サービスの詳細は下記へ