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「何が楽しくて編集者やってるの?」土館弘英に聞いてみた。

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じゃんけん採用で入社し、一度フリーランスになったものの、2018年に出戻りを果たした土館弘英。フリーランスとして外の世界を見たことで、編集や企画のスタンスにもたらされた変化とは?

聞き手:SAKURA(フリーライター)

 

フリーランスとして運よくつかんだ、エンタメ誌の仕事

―じゃんけん採用による電撃入社から、数年を経て、土館さんは一度アソブロックを退社されています。それはどうしてだったんですか?

当時、社内の空気がわりと澱んでいたんですよね……団さんとかも言ってるけど。いまと比べると、真逆な感じ。ほら、いまって“一致団結しない”が合言葉じゃないですか。でも、俺が辞めたときは一致団結しなきゃいけない会社だったんです。朝会で社訓を読むみたいな(笑)。それがすごい気持ち悪くなったっていうのが、理由のひとつ。それに、しばらく担当していた携帯サイト業界も落ち着いてきて、なんか新しいことをやってみたくなったんです。とりあえず営業やったりもしてみたけど、いまいちダメで……このままアソブロックにいて、たとえば安井さんとかに勝てるようになるほど活躍できる気がしないというか。ずっと誰かの下で働き続けるだけっていうのも、申し訳ないですしね。だったら、どこか外に出て、一本立ちできるようになりたいなと思ったんです。

 

―なるほど。ここまでは声をかけられてカフェの店長をしたり、じゃんけん採用に乗っかってみたり、流されるままに仕事を得てきましたよね。次はどうしたんですか。

これがまた運なんですけど、辞めようって決めたときに、大学の友人から連絡をもらったんです。「『TV Bros.』(以下ブロス)って知ってる? 辞めちゃう編集者の後任を探してるから会ってみない?」って。もともとエンタメとかカルチャーは好きだったから、それがご縁で定期的にブロスのお仕事をいただくようになりました。じゃんけんで勝ったのも、フリーで食べていけるようになったのも、本当に運。

 

―また、いい運に流されてる……!

(笑)。それまではずっとWebばっかりつくってたけど、フリーになってからはそうやって紙の経験も積んでいきました。ブロスの仕事はとにかく楽しいと思いましたね。

 

―なにが楽しかったんですか? 

もともと音楽やら映画やらが好きだったし、アソブロックで積んだ経験もあったからか、企画の採用率が高くなりました。そのうえ、それなりに名のある媒体だから、取材のオファー成功率がぐっと上がったんです。つくりたての携帯サイトとかだと、100人くらいに取材依頼をかけても、95人や96人には断られる。でも、ブロスの企画だと、聞きたい人に聞きたいことを聞ける確率が高かったんですよ。これはめちゃくちゃ興奮しましたね。

 

―確かに、編集者としてはエキサイティングな環境ですね。当時のお気に入りの企画とか、ありますか?

たくさんありますよ。たとえば、ミュージシャンの岡村靖幸さんが10何年ぶりにアルバムを出したときは、雑誌のなかでお祝いするための企画を考えました。それで、アルバムタイトルが『幸福』だったから、一冊まるごと“幸福”特集にしたんです。自分が考える幸福というものを、いろんな連載の書き手全員に書いてみてもらおうと。いままでにやったことのない企画だったから「絶対面白くなるぞ」ってわくわくしたし、各所に無理を言いながらも実現したときは、やれてよかったなと思いましたね。

 

外の世界を見て変わった企画・ 編集へのスタンス

―アソブロックにいたときは「編集は向いていない」「企画は自分の個性を出すためのもの」という考え方だったそうですが、フリーになって、意識に変化はあったんでしょうか。

「編集に向いていない」という気持ちは、やや解消されてきた気がしますね。そもそも「向き・不向き」でジャッジしようとしてた自分が浅はかだな、っていうのもあるし。編集の仕事の楽しさを享受しちゃうと、なかなかこれはもう、辞められない。いい仕事ですよね。企画立案から実現まで、まるっと関われるのがいいですよ。

 

―企画に向き合う際のスタンスは変わりましたか?

「誰もやったことのないことをやりたい」みたいな欲求は残ってるけど、それだけじゃなくなりました。たとえば、なにか面白いアイディアを思いついたとき「これ、あのライターさんが得意そうだな」「あの人、これに近いこと言ってたっけ」みたいに、企画と人を繋げることを考えるようになった。昔は誰に関わってもらうかはどうでもよくて「俺のこの企画、面白いでしょ?」で終わってたんですよね。でもフリーになっていろいろ経験を重ねていくと「この人とこの企画、この内容をくっつけたら面白くなるだろうなぁ」って妄想がはかどるんですよ。

 

―「俺が思いついたこの面白い企画を、俺が書きたい!」はないんですか?

ないです。すごい書き手って、世の中にはめちゃくちゃいるんですよ。昔は編集もライティングも全部ひとりでやってたけど、あるとき紹介された書き手さんに任せてみたら、上がってきた原稿がめちゃくちゃ良くて。「僕には書けない」っていうものがバンバン出てくることが増えたら、もうライターより、編集という立場でいこうと思うようになりました。

 

―だんだん編集者という職業が身体になじんできて、楽しい仕事もできて……フリーで活躍していたなかで、どうしてわざわざアソブロックに戻ってきたんですか。

まず、ブロスが隔週から月刊になって、仕事がちょっと減ったんです。あと、その少し前にアソブロックのメンバーと会う機会があって、会社の空気が変わったのを聞いたんですよね。“兼業必須”になってるぞ、と。それも面白いなと思ったし、戻ることで「わし、あの頃よりはちょっと良くなったっしょ?」って成長を見せたい感もあった(笑)。それで、出戻りというかたちになりました。

アソブロックに出戻りした理由を語る土館氏

 

―なるほど。フリーランサーとして己の力を磨きつつ、アソブロックでもよき仕事仲間と刺激を与えあっている様子が土館さんのお話しぶりからとてもよくうかがえました。土館さん、今回はありがとうございました

 


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