──団さんチームで運営されているバイト探しの「an」さんのバイトスクープの事例について教えて下さい。「バイトやシゴトにまつわる素朴な疑問や不安を”学生探偵”が実際に体当たりで調査する」という企画コーナーですけど、これ、本当に学生さんが記事を作っているんですか?
団:そうですよ。
──まず、どうしてこういう企画をやることに?
団: 背景としてはまずanが「第一想起」に苦戦している問題がありました。
第一想起というのは要するに「〇〇と聞いて一番最初に思い浮かぶものは?」ということなんですけど。anにかぎらずアルバイト情報メディアの業界は「第一想起がどの媒体か」っていうのがほぼそれに尽きるといっていいくらいすごい大きな指標で。
それでまあ要因はいろいろあると思うんですけど事実の話からいくと、anは、10代〜20代前半の第一想起の順位が非常に悪くなってしまっていたんですね。
20代でも、後半以上の、フリーターの人の認知は強いんです。ところが18歳とか、特に高校生とかは、調査会社がやってる定期調査でanを「知らない」にチェックするんですよ。僕なんかの時代は、バイト情報誌ってanとフロム・エーしかなかったから。「バイトでan知らんとかあるの?」っていう気分なんだけど、リアルに知られてないらしく。これはやばいぞってなって。
それで早い話「大学生高校生の第一想起の順位を上げるために、何かやってくれ」という相談が僕のところにきたんですよね。
で、アソブロックとしてはそこで「大学生・高校生の編集部を作ろう」という提案にしたんです。
──それは「認知を上げたいターゲット読者と等身大の人たちがコンテンツを作ったら、読まれるのではないか?」という発想からですか?
団: それもあるし。あとはまず、そこの学生編集部の人たちにanという媒体の存在を教えて。その子達が今度、友達に、取材にいくときに「anなんやけど」っていうことでその存在を教えて。地道に(笑)。
──あ、そういうことですか。編集部の周りからだんだん。めちゃめちゃ草の根活動ですね(笑)
団: そうそう(笑)。でもね、ほんまにanのこと知らないんですよ。
今、16人いるんですけど、学生編集員が。全員じゃないけど、4、5人、やっぱりan知らんかった。編集がしたくて、そういう枠組みだと聞いて紹介で来ましたって。そうかそうか、それでweb anっていうんやけどさって説明したら、なんですかそれ、みたいな(笑)。ほんま知らんのやなって。
──まずは編集部内から草の根活動が始まったわけですね(笑)。「大学生・高校生の編集部を作ろう」から具体的に「バイトスクープ」というコーナーの企画に至ったのは、どういう経緯になるでしょうか?
団: 大学生・高校生でも運用しやすい記事の枠組みが必要やなという前提のなかで、「調査モノ」やったらやりやすいやろっていうことで。それでバイトスクープっていうコーナーをつくった流れですね。
──バイトスクープの成果や手応えとしては、いかがですか?
団: やりはじめて1年で、バイトスクープだけで、月間10万PVいったんですけど、今もそのままコンスタントに月10万いってる感じですね。突出した人気コンテンツがひとつふたつあって、月間2、3万稼ぐのがあるんですよね。それのおかげが大きいんですけど。
──ちなみに人気コンテンツはどんな内容なんですか?
団: anに関していうと、PVを稼げるのは、とってもチャレンジ的な企画か、もしくはめっちゃ役立つか、どっちかです。
お役立ち系はたとえば「バイトの茶髪はどこまで認められるのか」っていうやつですね。きちんと取材して。いわゆるカラーチャートの7番だったら飲食店OKだとか。すごく厳密にやったんですよ。それが役立つのか、とってもPVあがっている。
で、チャレンジングな企画のほうですけど、一番人気はキワモノで「ヌードモデルのバイトをやってみた」っていうやつ。これが月々本当に稼ぐんですよ。
ひとつ契機もあって、マツコ・デラックスさんのTV番組で、ヌードモデルっていう職業が紹介されたんですよ。世の中の不思議な仕事を紹介するみたいな企画で。
そのとき、バズワードとして「ヌードモデル」が挙がって。たまたま、バイトスクープの記事が上位にきていて(笑)。そこからやたらとPVが。
だから、最初はおそらくこの月だけのバブルやでって言ってたです。マツコ・デラックス効果で。次からは落ちるでっていってたんやけど、結果、あんまり落ちなくて。
──それらの人気企画も学生が考えたものなんですか?
団: そうそう、基本は。企画会議で学生が出したものです。
なかなか興味深いのが、僕が今43歳なんですけど、学生と一緒に編集会議やっているときって、基本的に僕にとってはおもろないんですよ(笑)。学生の言ってくることが。僕からすると、そんなんほんまに知りたいの?とか。そんなんばっか。
「こうしたほうがおもろいやん」とか結構言ってしまいがちで。それを、学生たちも「ああさすがですね!」「そのほうがいいですね!」って言うんですけど。
でも、結論、学生が最初に思いついたままやったほうがうける(笑)。だから今は極力学生の企画はいじらないようにしてます。
あとは、編集的な正しさも追求しない。
これがいつも戦いなんですけど。anとしても当然、一応全体的な表記ルールとか、メディアガイドラインとかもあるわけで。
たとえば、これはあくまで例ですけど、お店取材をしたときに「店長の顔色をうかがいながら味わうしゃけは本当に塩辛い」みたいな文章とかを書いてくるんですよ。ようわからない(笑)。どれが主語で述語で、一体何が言いたいのか。
もちろん、なんとなくはわかる。でもこれに対してやっぱりどうしても「店長の顔が塩辛いんですか」みたいな指摘を、編集的な正しさを追求すると入れてまうんですよ、文章おかしいでみたいな。
「店長はなんとかでした」「そこで食べるしゃけは塩辛かった」っていうのが、構文としては正しいんやけど。
でもこれ、直さないほうがいいんですよ。
そのほうが、われわれがリーチしたい高校生大学生には、読みやすい、正しい文章なんです。
・・・っていうこともやりながらわかってきて。
読めない、理解できないっていうのはさすがにあかんから修正するけど。ニュアンスがわかるものとかは、できるだけそのままです。
──わかるようで、わからないようで、わかる。
団: そうなんですよ。やっぱり、短い文章でいかに相手とコミュニケーションするかっていうことを、デジタルネイティブは追求している世代だから。
そのような発想で、校正はしてあげるけど、否定はしないというか。
校正はするはするんやけど、いわば旧仮名遣いを教えている感覚です(笑)。君の文章を否定はしないけど、もし君が岩波新書の編集部にいきたいんだったらこういう知識も必要やでって意味で、教えはしているんですよ。本当はこうだよって。やっぱり、編集部に来る子は、出版社狙いの子とかもいるのでね。入社試験には作文テストとかもあるから。俺みたいなやつが人事担当だからな、と(笑)。
まあでも、バイトスクープにおいては、極力学生のものをそのまま提供するっていうのが支持を得たポイントかなと、あえて言えばそうかなとは思っています。
──学生主体の編集部というと気になるのが、編集体の維持についてはどういう努力をされてるんですか? いってしまえばプロじゃない人たちの集まりで、やる気もバラバラだろうし、「仕事」として維持していくのはすごく難易度高そうだなと。
団: そうそう。まあ、気をつけていることは、極力、誰も手持ち無沙汰にならないようには努めていますね。なんらかの担当を少しずつはしてもらう、この記事のこのパートを担当してますとかっていうことは、僕ほかアソブロのメンバーは結構気を使ってますね。
あとは、これも実は結構難しいことではあるんだけど、幽霊部員をウェルカムにするっていうのも心がけていて。
これ、学生編集部の運用を考えたときにはとても大事なことで。やっぱりね、一生懸命やっているやつたちが、どうしても発言権をもってくるんです。そうすると、部活やサークルが忙しいとか就活が大変でとかであんまり参加できないやつが、俺もうそろそろごめん、参加もできないし辞めるわってなりがちなんです。
それが、やっぱりどんどん進んでしまうと、人数が減って、残ったメンバーの負担感も増えるんですよね。それは極力ないようにしてます。
それと、編集会議を盛り上げて面白くしようっていうのも、重要ですね。
楽しければ、友達を紹介してくれるので。基本的に新規探偵の増員は紹介頼りなので。メンバーの補強も、いい意味で学生に放り投げてやってるから。メンバーが大学を卒業したりで、探偵の数が減ってきたら、ちょっとみんなで探偵誘いにいこうぜみたいな。完全サークルノリですね。一人が一人つれてくることな、みたいな。そんなふうにやってますね。
──編集会議を楽しい場にするっていうのはすごく重要な気がしますね。積極的な意見とかも出やすくなるでしょうし。
団: そうですね。でも一方で、しゃべらない子もいいよってことにしてます。あんまり求めない。どう思うの?なんか意見ある?とかも無理にはふらない。
──ひとり必ず一回は発言すること、とかもなく?
団: そう。ない。
最初のほうは「一人3個ネタをもってくること」ってしてたんだけど、そういうのもやめました。ええやん、ネタなくても、なんとか来たやんって。来たことを褒めようぜみたいな(笑)
3個ずつもってくることってルールにすると、3個思いつかなかったから行かない、とかいうやつが出るわけですよ。それより、ネタを考えては来てないけど、相手が言うことに対してのリアクションがおもろいタイプもいるやんか。それはそれで大歓迎やんって。
逆に皆勤賞でしかも記憶力のある優秀な子にかぎって「それ前出たけど」とか言ってしまうわけですよ。相手にとっては渾身の作なのに。
そういうことは一切言わない。おもろいやん~って。おもろなくても(笑)。
幽霊部員でも、発言が少ない人でも、参加しやすい楽しい編集会議にしておくっていうのはいちばん大事かもしれないですね。
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