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なぜ研修で営業力は上がらない? 営業研修にまつわる3つの“誤解”

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「あ総研」研究員の阿部です。突然ですがこれをお読みの皆さまは「営業研修を取り入れたけれど思うように営業力強化に繋がらなかった」経験をお持ちではありませんか? 

「高額な研修費用を支払ったのに…」「一流企業での導入実績も多い研修だったのになぜ…」というボヤきを何度も耳にするうち、 実をいうと私はいつしか「そもそも研修で営業力を上げること自体が無理な話なのでは?」と懐疑的な考えをもつようになっていました。

…という話を私の尊敬してやまないとある大先輩に話していたところ「研修を受けても思うように営業力が上がらなかったその理由は、営業研修そのものを誤解しているからかもしれないよ」というご指摘をもらいました。

詳しく聞くと目から鱗の話だったので、今回その先輩に「あ総研」への緊急寄稿をご依頼。快く引き受けてくださったので、 皆さまにシェアしたいと思います!

寄稿してくださったのは、 株式会社アイ・スリー代表の志賀澄人さん。自身も講師として10年以上、組織研修の現場に立ちつつ、近年本当の意味で営業力を向上させるプログラムの開発にたどり着いた人物です。志賀さんに、世の中の営業研修にまつわる誤解を紐解いてもらいます。

株式会社アイ・スリー 志賀澄人
1975年生まれ。プログラマー、SEを経て、教育の道へ進んだ異色の経歴を持つ。2010年に株式会社アイ・スリーを設立。著書16冊。延べ1万数千人のITエンジニアを研修で育成した実績をはじめ様々な業界、職種に向けた研修・教育コンサルティングサービスを提供している。

世の中の営業研修は、成功事例ばかり。

世の中の営業研修は「基礎研修」と「応用研修」の2つに分けることができます。「基礎研修」では、営業そのもののプロセスを学びます。そして、ヒアリング、提案、クロージングのポイントを身につけます。これは新人の営業担当にとって欠かせない研修といえるでしょう。では、「応用研修」とはなにか。今回テーマにしている「営業研修」は、まさにこの「応用研修」を指すものとして話を進めます。ある一定の営業経験を重ねたメンバーに対して、営業力の向上を目的に実施される研修のことです。

この営業“応用”研修は、世の中に数多存在し、さまざまな種類があるように思えます。しかし、そのロジックはほとんど同じ。大半が「成功事例」を共有するものです。「営業研修にはいろんな種類がある」。この思い込みこそ1つめの誤解なのです。

世の中の営業研修は、成功事例の共有ばかり

 

成功事例では営業力は上がらない。

営業研修の資料や営業マニュアルが手元にあるなら、ぜひ見返してください。「成功事例を言語化したもの」ではないですか? 製品やサービスを販売するための成功ノウハウが書かれてはいませんか? これは一般に「成功事例の共有こそ、営業力の向上に効果的」と思われているからです。

しかし、実は成功事例は再現性がとても低いのです。教わった成功事例の通りに事が進めば良いですが、多くの場合そうはいきません。成功へ至るまでにいろいろな要因が組み合わさっていますから、ひとつでも欠けると成功しません。つまり「成功事例の共有だけでは営業力を向上させることはできない」のです。ここに2つめの誤解がありました。

「成功事例の共有」には再現性の低さだけでなく、もうひとつ問題があります。営業という職種は個人が売上責任を持ちます。つまり個人が独自の成功マニュアルを持っているような状況です。なので、せっかく自分の成功体験を部下や後輩と共有しても、その成功は個人のノウハウやスキルに依存したものでしかないため「そんな方法では売れません!」とか「そのやり方は古い!」と反発されることも少なくありません。

また、上司が成功事例を教えれば教えるほど、 若手は失敗を恐れて萎縮します。教わった通りにやってみて失敗しようものなら「(上司に比べて)自分はできない人間なのだ」と自らにレッテルを貼ることになってしまいます。あるいは反対に「先輩は運が良かっただけだ!」と言い訳をして自分は悪くないと開き直るかもしれません。そのような結果ではなんの成長にもつながりません。成功事例の共有によって人を育てようとすること自体に、無理があるのです。

成功事例を教えれば教えるほど受け手は委縮しかえって力を発揮できない


失敗事例の共有は難しい、という誤解。

では、どうしたら営業力を上げられるのか。答えはとても簡単です。失敗事例を共有したらいいんです。失敗事例は成功事例と比べると再現性がぐんと高くなります。過去の失敗を基に未然にトラブルを避け続けることができれば、たとえホームランが打てなくても、ヒットを打ち続けることができるはずです。全員が失敗を避けてヒットを飛ばし続ければ、そのチームは勝てるんです。

ここでいう失敗とは「当たり前のことを当たり前にできていない」ことを指します。ヒットを打ち続けているベテランは、当たり前のことを当たり前にやっている。たとえば「挨拶をしっかりする」「メールの返信を素早く行う」「訪問先は前日の夜に必ず確認する」「余裕を持ってお客さん先を訪れる」など。ただ、 ベテランはこうした「当たり前」を若手にわざわざ話すことはありません。ベテランにとって「当たり前」は「常識」であり、自分の「常識」を言語化するのは難しいのです。だからでしょうか、世間では「失敗事例の共有は難しい」と誤解されています。 これが3つめの誤解です。

やっかいなことに、「当たり前」である「常識」は、自分、または自分が嫌な思いをさせられた誰かの失敗経験から得られることが多いのです。部下が失敗したとき「なんでできないの? それくらい常識でしょ!」と腹が立ったことはありませんか? これは、自分自身が体験した失敗当時の情景や感情が無意識のうちに表出しているからなのです。失敗の苦い思い出を引きずっているのです。

しかしその失敗体験こそが、営業力をあげる鍵となるのです。私は失敗事例の再現性の高さに着目し、仲間と失敗事例を共有し合い、一人ひとりの血肉となるまで失敗事例を落とし込むという研修プログラムを開発しました。「失敗の共有」と聞くと、トラウマの克服だとかのスピリチュアルな研修を想像する人も多いようですが、それも「失敗事例の共有は難しい」と誤解される要因かもしれませんね。 けれど失敗事例の共有はやり方さえ間違えなければ、怪しいものでも難しいことでもありません。

失敗事例を共有する際に重要なのは、最初に「あの失敗があったから、今の私がいる」というように、「失敗の肯定的な目的」を探してもらうことです。否定ではなく失敗経験を肯定しながら思い出してもらうのです。失敗を受け入れられると、人生そのものを受け入れられるようになります。私たちの研修を受けた方の中には「なるほど、あの時の体験には意味があったんだ! 必要な体験だったんだ!」と前向きに物事を捉えられるようになった方も少なくありません。講師の役割は失敗を肯定的に受け止めてもらえるよう促すだけですが、まずベテランの方々に向けて失敗を肯定できるように導いてあげると、今度は彼らが部下にも安心して失敗してもらえるように自らの失敗体験を進んで話すようになってくれます。結果、一人ひとりの失敗経験が、他者の貢献につながることを実感し、良いサイクルが回るようになります。

成功体験は一足飛びに誰もが再現できるものではないが失敗体験は再現性が高く共通の礎となる

 

社内の失敗事例こそ財産。 

たとえば私が開発したプログラムでは、1泊2日で参加者全員に失敗体験を語ってもらいます。その様子を録画し、後日、ビデオ教材として何度も見返してもらいます。同時に、失敗事例から導き出した「当たり前」を、eラーニングに落とし込みます。こうやって自社だけのオリジナルのマニュアルをつくるのです。数ヶ月間かけて、「自らの組織で受け継がれてきた失敗とは何か」「失敗を回避するために行うべき当たり前とは何か」を身につけてもらいます。

失敗事例の共有はこれまで扱いにくいものとして、誰も手を出そうとしませんでした。多くの人が失敗は悪いことだと、臭いものに蓋をするように目を背けてきました。しかし、いざ蓋をあければ、失敗事例こそが財産だと気づく。成功事例ではなく、自社の、先人たちの失敗事例が自らを常勝チームへ押し上げることに気づけるのです。

通常語りたくない失敗体験こそが実は組織にとってかけがえのない共有資産なのです

失敗を積極的に共有する組織では、マネジメントのあり方も変わってきます。再現が難しい成功事例を押しつけるようなことはもうしません。失敗することは良いことだと捉えつつ、失敗事例を再現しないようフォローするマネジメントへと変化していくでしょう。

世の中の営業研修はほとんどが成功事例の共有です。しかし、成功事例は再現性が低い。だから、再現性の高い失敗事例を共有することで、ヒットを打ち続ける常勝チームへと成長させることができる。営業研修にまつわる誤解が解けた皆さんなら、今度はちゃんと営業力の上がる営業研修を選ぶことができるはずです。健闘をお祈りします!

志賀さんが開発した教育プログラムがこちら

寄稿者紹介
株式会社アイ・スリー 志賀澄人
http://www.ix3.co.jp/
事業内容:教育サービス、教育コンサルティングサービス、技術書の執筆・出版

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