アソブロックのマーケティング担当でもあり、常時50社以上の企業のマーケティング支援やコンテンツ制作支援を手がけてもいる編集者・阿部俊介。彼が考える“これからのオウンドメディア”について、現状の課題や風向きを踏まえて聞いた。
聞き手:SAKURA(フリーライター)
オウンドメディアの存在意義は、これからもなくならない
―まずは、阿部さんがさまざまな業種のマーケティング支援を手がけているなかで、近ごろ感じている世の中の気配について聞いてみたいです。いま、オウンドメディアはどんな状況なのでしょうか。
やっぱり、ある種の“行き詰まり”は感じられますね。よくいえば「流行りモノ」の域は脱してベーシックな施策のひとつとして定着したと思います。ただ裏を返すと、多くの企業がオウンドメディアを持つようになったことで「オウンドメディア経由で流入してくれた潜在顧客のほとんどは既に他社のコンテンツにも触れている/他社にも問い合わせを入れている」という状態になってしまっています。実際に支援している多くの企業で、オウンドメディアで獲得した見込客からの「受注率」は少しずつ下がっていっているという危機感をもっています。
―コンテンツが飽和して受注がとりづらくなっている現状で、ずばりオウンドメディアに未来はあるんでしょうか。
それは全然、ありますよ。たしかに「どこでもやっている」という飽和感はにじんできているけれど、逆にいえばやってすらいないのはそもそも土俵に上がれないということだし。僕は結論として、オウンドメディア自体はまだまだポジティブな施策だと思っています。企業が、商品のアピールだけではないお役立ちコンテンツとか、考え方・想いみたいな情緒的なメッセージを発信していくという活動そのものは、これからも絶対やったほうがいいことです。
―とはいえオウンドメディアは、つくるのも続けるのも労力がかかりますよね。それでもポジティブな施策だと思えるのはなぜでしょう。
そうですね。もうちょっと正確にいえば、「オウンドメディア」というフォーマットがこれからどうなっていくかについては、そんなに大きな問題ではないと思っていて。ツールやテクノロジーはこれからも目まぐるしく進化していくでしょうから、そのときどきでよいものを取り入れて変化していけばいい。ただ「良質なコンテンツを編集して発信する」というオウンドメディア施策の本質的な部分については、すこし大げさに言うなら、きっと人間が存在するかぎりなくなることはないと思っています。
―「人間はコンテンツが好き」という前提があるわけですね。
そういうことですね。あと、さらに具体的な視点で言えば、オウンドメディアっていわゆるSEO対策の側面で実施されることが多いですよね。それゆえにGoogleの検索結果表示ロジックを一喜一憂しながら追いかけている人も多いわけですけど、そもそもGoogleの方針の根本は“検索者利益の追求”です。「検索した人の意図に一番マッチする結果を表示していこう」という考え方は検索する側からしたらありがたいことだし、僕自身も賛成したい。その方針の根本さえ理解していれば「どんな情報を提示すれば検索者が喜ぶか?」という目線でコンテンツをつくることで、SEO対策にはおのずと結果があらわれてくる。やった分だけちゃんと成果がでてくれやすいという点も、僕がオウンドメディアをポジティブに捉えている理由のひとつですね。
メディアの目標値は 「問い合わせ数」から「受注数」へ
―とはいえ、その成果の面で「行き詰まり感」もあると冒頭で教えていただきました。そうした状況を打破すべく、これからのオウンドメディアについて企業はどう取り組むべきだと考えてますか?
先ほど言った通り、オウンドメディアからの受注率が下がっていることが課題と感じています。逆にいえばこれからはより受注に貢献するオウンドメディアを意識的に目指したらいいと思います。
―具体的にどのようなオウンドメディアをつくれば、受注に貢献すると思いますか。
それを説明するために、オウンドメディアのこれからのあるべき姿を「オウンドメディア2.0」と勝手に定義していまして。
―「オウンドメディア2.0」ですか。
はい。
―えっと、ちょっと今Webで調べてみたら違う使い方で「オウンドメディア2.0」を提唱している人、 既に他にもいるみたいですけどね。
なんか、そうみたいですね。
― 2.0どころか、3.0を言っている人もいます。
でも、どうせたいして浸透してないでしょう? だからまだ広めたもん勝ちかなと。そんなこと言ったら先に提唱してる人に怒られるか (笑) 。
― 怒られるでしょうね (笑) 。まぁとりあえず今回のインタビューでは便宜的に「受注に貢献する次世代型オウンドメディアのことをオウンドメディア2.0と呼ぶ」ということでいきましょうか。
それでお願いします! で、満を持してさっきの図の説明を進めますが。
ずばり、オウンドメディア2.0が提供すべきものは「情報」ではなく「疑似体験」。企業の製品やサービスを一方的に紹介するのではなく、ユーザーが少しでもその製品やサービスとふれた感覚になったりとか、企業と接点をもったような気になったりできるコンテンツをつくるべきだと思うんです。そしてそのための具体的な策としては、とにかく“人”を出すことが重要。
―人、ですか?
はい。これからのオウンドメディアは、商品ではなく人を売る。人をアピールしていくべきだと考えています。インフルエンサーや芸能人に出てもらうという意味ではなく、企業に関わる人間を前に出していくんです。
(後編に続く)