第74回 8月10日(土)
会場:エコルとごし
通算74回目の家族理解ワークショップ(東京開催)は、13名の方にご参加いただきました(初参加の方が5名)。その様子をレポートします。
【オープニングトーク】
オープニングトークでは、特に初参加の方がスムーズに場に馴染めるように、このワークショップで目指していることなどが講師の最近の興味・関心事に絡めながら話されます。
今回は、「流行り言葉と家族の見立て」という話。
講師は、長く相談業務をする中で「起こっている課題や問題の語り方は時代の影響を色濃く受ける」と感じてきました。そこに横たわるのは、トレンドだったり、流行り言葉だったり。一方の援助者も時代の影響を受けますから、見立てにもバイアスがかかってしまいがち。例えば欧米から入ってきた「トラウマ」という概念をどう扱うかなどは、慎重さが必要です。相談者はともかく、援助職者が流行に乗り過ぎてしまうのは、少々心許ないと言わざるを得ません。
このワークショップで学ぶ根幹にある「家族システム論」は、そのような影響を受け過ぎず、適切に家族の状態を見立てるための考え方であり、技法です。その技法は、何も専門的なことではなく、「家族に思いを馳せる」誰もが普通に持ち得る力であり、家族に関わる大概のことは、専門家になど頼らなくても、自分たちでなんとかできるということが話されました。
【セッション1】
セッション1は、「家族の構造と今日社会」がテーマ。
最近講師が京都で開催した、短期集中型のワークショップで、実際にあった事例を取り上げながら話がありました。
そのワークショップでは、参加者がグループになり、最近見聞きしたケースを出し合い、どれか一つを選んでロールプレイ形式で事例として場に提供したそうです。全部で4つのグループがあったそうですが、事前の打ち合わせをしたわけでもないのに、4つの事例の核となる問題が同じだったことに驚いた、と講師は話しました。
「さて、その問題は何だったでしょう?」
問い掛けに対して2人1組で意見交換。主訴が児童のことであることは前後の文脈から明らかでしたので「不登校、発達障害、暴力、SNS」などの意見が出ましたが、いずれも不正解。共通の問題は「盗み」でした。この意外な共通項を受けて、講師が何を思ったのかを中心に、漫画エッセー「木陰の物語」の作品も見ながら、話が進みました。
ワークショップには、児童に関わる人、高齢者に関わる人、医療関係者、学校の先生などあらゆる年代の「人に対してサービスを行う人(対人援助サービスと総称)」が参加されますが、そこで共通して役立つ考え方として学んでいるのが、「家族システムへの介入による解法」です。
「家族システムへの介入による解法」とは、問題とされる個人の内面に焦点を当てるのではなく、個人の持つ関係性、中でも家族という万人が共通で持つ関係性に焦点を当て問題解決を図ろうという考え方です。言い変えると「部分はいつも全体の中にある」と考え、全体(家族の関係性)に変化を与えることで部分(問題とされている事象)を解決に導こうとすることです。
例えば不登校の問題解決を検討する際に、不登校児の心の在り様に焦点を当てるのではなく、不登校児の家族の関係性に焦点をあて、その関係性に変化や刺激を与えることで、結果的に不登校状態が続かない状況をつくっていこうとします。
【セッション2】
セッション2は恒例で「参加者の3分間トーク」を行います。
普段の人付き合いが、職場の同僚を中心にどうしても固定化してしまう傾向がある中で、同じヒューマンサービスの職に携わりながらも、対峙する相手や取り扱う問題がまったく違う人と輪になり「最近私の周りでは…」とお互いに報告し合います。今回は運営スタッフを含め7人グループに分かれて行いましたが、それはつまり、近接領域で今起こっているいくつもの話が同時に聞けるということです。
学校や病院や介護の現場、家庭や学生たちの間で起こっている問題。それぞれは個別的でも、同じ社会を構成する人に起こっている問題であることに変わりありません。そして、それぞれが本当にまったく無関係かというと、実はそうでもないことが多いのです。
幼稚園で起こっている問題が、形を変えて高齢者の現場で起こることがあります。保護観察所の中で起こっていることが、そのまま現代の家族に置き換えられる出来事だったりもします。それらを聞きながら、整理し、改めて自分の現場や家庭で役立ててもらおうというのが、このセッションの目的です。
3分の話を聞いた後は、それをネタに7分間、メンバーでディスカッションします。すると、そこで起きている問題や課題がより明確化したり、あるいはメンバーの意見を聞くことで、発表者が事実をこれまでと違う視点から見られるようになったりします。参加前は「この3分間トークが不安で…」とおっしゃる方も時々いらっしゃるのですが、実際にやってみると、なんてことはない職場や家庭での雑談を、普段とは違うメンバーで行う感じで楽しいのですよ。
【セッション3】
セッション3は、ジェノグラムを使った事例検討が行われました。
ジェノグラムとは家族関係を図示するものですが、このワークショップで繰り返し学ぶ技術です。この技術を学び・使い・経験を積み重ねることで、
・ジェノグラムを見て、家族関係のバランス・アンバランスを感じ取ることができる
・バランス、アンバランスから具体的な援助プランを考えることができる
というメリットがあります。対人援助職者が携わる多くの問題は、「家族」というステージの上で起きています。不登校も、DV問題も、離婚問題も、養育放棄も、介護問題も、その多くに共通するステージとして、家族があります。そのため、援助の第一歩はまずステージの状況を正しくアセスメントすること、つまり家族の構造を理解することです。
インタビューの際にポイントになるのが、「境界・サブシステム・パワー」という三つの要素およびその機能状況です。問題を抱える家族においては、それら三つのファクターの何かが「一般的ではない」ことが多く、アセスメントにおいてはそれを「家族の特徴」と見なします。そして、その特徴が問題とされる事項になんらかの影響を与えていることが多いのです。
例えば、本来であれば夫婦で話し合って決めるべきことを上世代が決めてしまっているようなケース。子どもが行く小学校を、跡取り問題に紐づけておじいちゃんが決めました、などは一般的ではありません(境界侵犯と見立てる)。それで上手く行っていれば何の問題もないのですが、仮にその経緯を踏まえて小学校に通っていた子どもが不登校になってしまったような場合は、不登校問題のように見えて、実はそうではないのかもしれません。
当事者にとっては「当たり前」になってしまっている「家族の特徴」を「一般的なそれ」に戻すことで家族というステージを整える。その結果、問題が解決に導かれることも案外多い。ざっくり言えば、これが「家族システムへの介入による解法」です。
今回は演習として自身の家族のジェノグラムを描き隣の人と対話をしたのちに、37歳男性、38歳男性、7歳女性、5歳女性、3歳女性、2歳男性の6人暮らし世帯に起こった「問題とされる出来事」について検討しました。講師はいつも「正解を当てることが大事なのではなく、少ない情報の中でどれだけその周辺でありそうなことに想いを馳せることができるか? これが支援の質を左右する」と語ります。
そんなこんなで、あっという間の6時間。
今回も学びと笑いが絶えないワークショップでした。
次回v75は、11月9日土曜日に開催します。
レポート執筆時点では会場がまだ未定なのですが、決まり次第お知らせしますので、専門職の方から、お母さん・お父さんまで、次回もたくさんの方のご参加を、お待ちしています!
※文中に出てくるケースや実例の内容等は、実際の講義と一部変更している場合があります
文責/団遊
【今回の参加者の職業・所属等(参加申込書より)】
児童相談所、児童福祉司、社会福祉士、公務員、幼稚園園長、パート、専攻医、大学教員、医師、主婦(家族相談士)
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