リーダーズワークショップって?
講師について

参加者の声
お申し込み



第72回 2月10日(土)
会場:東京海洋大学 品川キャンパス 白鷹館




通算72回目の家族理解ワークショップ(東京開催)は、8名の方にご参加いただきました(初参加の方が2名)。その様子をレポートします。

【オープニングトーク】

オープニングトークでは、特に初参加の方がスムーズに場に馴染めるように、このワークショップで目指していることなどが講師の最近の興味・関心事に絡めながら話されます。
今回は、「家族を扱う」とはどういうことか?という話。
例えば病院において、とある部屋で癌と余命の告知が親族に対してされたとします。病状と治療方針を話した医者は部屋から出ていき、部屋には癌の父と一人娘、そして看護師が残る。そこに流れる時間を誰が扱うべきなのか。ここで扱うべき話題は「病状」というよりは「残された時間」であり、「家族」なのではないでしょうか。
似たような時間は、学校や幼稚園でも、あるいは法廷のような場所でも、流れることがあるでしょう。講師が25歳から75歳まで50年に渡ってケースを持ち続けてきた中で感じた家族相談の記憶は、そのような時間の連続であり、その時間を扱うべきは、渦中にいる医療関係者であり、先生たちであり、法律関係者であろうと語ります。
このワークショップで学ぶことは、専門的なことではなく、「家族に思いを馳せる」誰もが普通に持ち得る力についてであり、家族に関わる大概のことは、専門家になど頼らなくても、自分たちでなんとかできるということが、繰り返し話されました。

【セッション1】

セッション1は、講師が描く漫画エッセー、木陰の物語の中から「父の国」の作品をみんなで見ることから始まりました。
「父の国」の物語の背景に触れながら語られたのは、このワークショップで学ぶあらゆることの基礎となる、家族システム論についてでした。

ワークショップには、児童に関わる人、高齢者に関わる人、医療関係者、学校の先生などあらゆる年代の「人に対してサービスを行う人(対人援助サービスと総称)」が参加されますが、そこで共通して役立つ考え方として学んでいるのが、「家族システムへの介入による解法」です。

「家族システムへの介入による解法」とは、問題とされる個人の内面に焦点を当てるのではなく、個人の持つ関係性、中でも家族という万人が共通で持つ関係性に焦点を当て問題解決を図ろうという考え方です。言い変えると「部分はいつも全体の中にある」と考え、全体(家族の関係性)に変化を与えることで部分(問題とされている事象)を解決に導こうとすることです。

例えば不登校の問題解決を検討する際に、不登校児の心の在り様に焦点を当てるのではなく、不登校児の家族の関係性に焦点をあて、その関係性に変化や刺激を与えることで、結果的に不登校状態が続かない状況をつくっていこうとします。

講師は、繰り返しこう言います。

「大事なのは原因を究明することではなく、課題解決に向けた具体的な作戦を授けること。家族という集団には、解決に向かう力必ずあると信じること。専門細分化が進むと、援助者自身も全体を見る力が弱まり、結果的に問題解決力が弱まることがある。専門性は、家族理解(全体を見る力)の上にあるものに過ぎないと自制すること」。

今回は、上記に加えて「人は思いもよらない運命を背負わなければいけないことがある」ことが話されました。
「父の国」は北朝鮮籍の父親と日本国籍の母親の間に生まれ、そのことに人生を翻弄される子どもの物語です。その子が背負った翻弄は、社会が作った決まりの中で起きていることであり、外から見ただけでは分からない個別的な「事情」を抱えている人がたくさんいることを、頭に入れておかなければいけないと、話は結ばれました。

【セッション2】

セッション2は恒例で「参加者の3分間トーク」を行います。

普段の人付き合いが、職場の同僚を中心にどうしても固定化してしまう傾向がある中で、同じヒューマンサービスの職に携わりながらも、対峙する相手や取り扱う問題がまったく違う人と輪になり「最近私の周りでは…」とお互いに報告し合います。今回は運営スタッフを含め5人グループに分かれて行いましたが、それはつまり、近接領域で今起こっているいくつもの話が同時に聞けるということです。

学校や病院や介護の現場、家庭や学生たちの間で起こっている問題。それぞれは個別的でも、同じ社会を構成する人に起こっている問題であることに変わりありません。そして、それぞれが本当にまったく無関係かというと、実はそうでもないことが多いのです。

幼稚園で起こっている問題が、形を変えて高齢者の現場で起こることがあります。保護観察所の中で起こっていることが、そのまま現代の家族に置き換えられる出来事だったりもします。それらを聞きながら、整理し、改めて自分の現場や家庭で役立ててもらおうというのが、このセッションの目的です。

3分の話を聞いた後は、それをネタに7分間、メンバーでディスカッションします。すると、そこで起きている問題や課題がより明確化したり、あるいはメンバーの意見を聞くことで、発表者が事実をこれまでと違う視点から見られるようになったりします。参加前は「この3分間トークが不安で…」とおっしゃる方も時々いらっしゃるのですが、実際にやってみると、なんてことはない職場や家庭での雑談を、普段とは違うメンバーで行う感じで楽しいのですよ。



【セッション3】

セッション3は、ジェノグラムを使った事例検討が行われました。
ジェノグラムとは家族関係を図示するものですが、このワークショップで繰り返し学ぶ技術です。この技術を学び・使い・経験を積み重ねることで、

・ジェノグラムを見て、家族関係のバランス・アンバランスを感じ取ることができる
・バランス、アンバランスから具体的な援助プランを考えることができる

というメリットがあります。対人援助職者が携わる多くの問題は、「家族」というステージの上で起きています。不登校も、DV問題も、離婚問題も、養育放棄も、介護問題も、その多くに共通するステージとして、家族があります。そのため、援助の第一歩はまずステージの状況を正しくアセスメントすること、つまり家族の構造を理解することです。

インタビューの際にポイントになるのが、「境界・サブシステム・パワー」という三つの要素およびその機能状況です。例えば「パワー」とは家族の中で決めごとをするときに「誰が」「どのように」行っているかという決定のプロセスのことを指します。

問題を抱える家族においては、それら三つのファクターの何かが「一般的ではない」ことが多く、アセスメントにおいてはそれを「家族の特徴」と見なします。そして、その特徴が問題とされる事項になんらかの影響を与えていることが多いのです。

例えば、本来であれば夫婦で話し合って決めるべきことを上世代が決めてしまっているようなケース。子どもが行く小学校を、跡取り問題に紐づけておじいちゃんが決めました、などは一般的ではありません。それで上手く行っていれば何の問題もないのですが、仮にその経緯を踏まえて小学校に通っていた子どもが不登校になってしまったような場合は、不登校問題のように見えて、実はそうではないのかもしれません。

当事者にとっては「当たり前」になってしまっている「家族の特徴」を「一般的なそれ」に戻すことで家族というステージを整える。その結果、問題が解決に導かれることも案外多い。ざっくり言えば、これが「家族システムへの介入による解法」です。

今回は、97歳のおばあちゃんと35歳の孫のふたり暮らし世帯に起こった出来事の検討でした。チームに分かれて意見交換をしていると「血縁関係があるのか、ないのか」「経済的に困窮しているのか、していないのか」「二人とも健康なのか、そうではないのか」など、色々な見方や意見が出てきます。正解を当てることが大事なのではなく、少ない情報の中でどれだけその周辺でありそうなことに想いを馳せることができるか? これが支援の質を左右すると講師は語ります。

【クロージングトーク】

ラストは木陰の物語の中から「夫婦じゃなくて、両親で」の作品を観ながら、「口先処方」ではなく「行動処方」をすることが援助者にとっていかに大切かが話されました。講師は現代を「リップサービスの時代だと思う」と話す一方で「援助者がリップサービス業になることの危うさ」を危惧します。一億総コメンテーター時代の未来は明るくない、説明ばかりが上手になっても事態を打開できるわけではない、大切なのは変化であり、そのための具体的なアイデアを提案できる援助者でいてほしいと1日の会は結ばれました。

そんなこんなで、あっという間の6時間。
今回も学びと笑いが絶えないワークショップでした。

次回v73は、5月11日土曜日に開催されます。
レポート執筆時点では会場がまだ未定なのですが、決まり次第お知らせしますので、専門職の方から、お母さん・お父さんまで、次回もたくさんの方のご参加を、お待ちしています!

※文中に出てくるケースや実例の内容等は、実際の講義と一部変更している場合があります

文責/団遊
【今回の参加者の職業・所属等(参加申込書より)】

家族相談士、社会福祉士、公務員、幼稚園教諭、研修講師、スクールカウンセラー、児童相談所、幼稚園園長

このページのトップに戻る


2008-2024 asoblock Inc. all right reserved.